たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

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今回は、俳優としても歌手としても非常に人気の高い福山雅治を取り上げます。最近では、全盲のFBI捜査官を演じた『ラストマン』が話題になりました。福山雅治といえば、『容疑者Xの献身』や『ガリレオ』『そして父になる』など、優れた演技力で多くのヒット作を持ちます。また、シンガーソングライターとしても『桜坂』や『最愛』などの代表曲を持つアーティストとして有名です。そんな福山雅治の魅力がどこにあるのか、彼の楽曲作りのスタンスや歌声から探っていきたいと思います。

前編はこちらから)

実は、自作曲がなかった状態からのスタートだった

今でこそ、シンガーソングライターとして名を馳せている福山雅治ですが、アミューズのオーディションに受かった時には、1曲も自作の曲がなかったと発言しています。

高校時代から、コピーバンドを組み、長渕剛や浜田省吾、THE MODS などの影響を受けていた彼は、憧れの表現者は皆地方出身者という中で、自身も長崎という場所からどこかへ行かなければ何も変わらない、と感じていたとのこと。

単に都会への憧れ、というような軽い気持ちではなく、自分は一体何者なのか、ということを確かめる為に都会へ出ていく、という気持ちだったと言うのです。(

自作曲が1曲もないにもかかわらず、「音楽をやりたい」と言ってオーディションに受かった彼は、「とにかく作るしかない」と曲を作り始めます。
最初の頃は作りながら、少しずつ進捗していく状況だった、とも話しています。

楽曲によって、歌声を使い分けていく

今回、私は、彼の楽曲をデビュー曲から聴き直してみました。彼の歌声の特徴は、鼻にかかった甘い歌声なのですが、これがデビュー曲『追憶の雨の中』では、ほぼ聴こえてこないのです。

全く自作曲がなかったと言う彼ですが、デビュー曲のこの曲から彼は作っています。この曲はロックテイストの曲で、どちらかと言えば、ハードロックに近いような楽曲です。デビュー曲として、インパクトの強いロック曲を選んだということなのかもしれません。

この曲に於いて、彼の歌声はパワフルで幅のある響きをしています。全体に歌声の響きは太くソフトです。また、ビブラートはほぼなく、鼻にかかった彼の特徴である甘い響きの歌声はどこにも聴こえて来ず、男性的な力強い歌声なのです。響きは、ストレートで幅があり、やや混濁しています。混濁しているためにソフトな歌声という印象を与える声です。

歌い方は、音階に対して素直に真っ直ぐ音を取っていくという手法です。即ち、パワフルな幅のある歌声をしっかり出して素直に歌った、という印象の曲なのです。

また、この印象は、彼の存在を一気に広めていった『IT’S ONLY LOVE』(1994年) や『HELLO』(1995年)の歌声にも共通していると言えます。
この2つの楽曲は、『追憶の雨の中』よりも曲全体に明るい雰囲気が漂います。

明るめの音色の張りのある歌声が全体を覆い、デビュー曲ほど、響きに混濁は見られません。歌い方は相変わらず素直でパワフルですが、明るい印象です。

これらの楽曲に対し、1992年発売の『Good night』はポップス調の楽曲で、歌い方も上記の楽曲とは全く異なります。

この曲は、冒頭から軽い訥々とした語り口調で歌い始めています。また、彼の歌声の特徴である甘い響きの歌声があちこちのフレーズに顔を覗かせています。即ち、ロック調の歌声とは違う甘い響きの歌声なのです。

このように、彼はデビューした早い時期から、自分の作る楽曲のテイストによって歌い方や歌声そのものを使い分ける工夫をしていた、ということが言えるかもしれません。

この訥々とした歌声は、その後の楽曲の中で、彼の特徴を位置付けるものになっていきます。

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なぜ、彼の発する歌詞は、心に深く刻まれるのか

 

続きはこちらから福山雅治『音楽を通して自分が何者であるかを伝え続ける表現者』(後編)人生を変えるJ-POP[第30回]|青春オンライン (note.com)