「推し活」という言葉を知っているだろうか。
一昨年の流行語大賞にもノミネートされた言葉である。
「推し活」とは、自分が好きなものを応援することを言う。
この言葉がマスコミやメディアなどで取り上げられるようになって久しい。

それは、「推し活」の持つエネルギーによって人生そのものを変える人がいるからでもある。

以前は、自分の好きなものや好きなアーティストなどを熱狂的に応援する人のことを「オタク」と呼んで、その印象はどちらかといえば、マイナスイメージに近かったかもしれない。

しかし、今、「推し」という言葉は、日本社会の中で非常にポピュラーなものになって来たのを感じる。

「推し」
即ち、それは、自分の好きなものを指す。

芸能人やアーティスト、アイドルに限ったことではなく、自分の好きなもの全般。

例えば、電車が好きな人は「電車推し」だし、トマトが好きな人は「トマト推し」、

お金が好きな人は「お金推し」というふうに、

人に限らず、自分が堪らなく好きなものを紹介するときに用いられたりもする。

この「推し」に対する感情は、

その人にとって大きなエネルギーの源になることが多い。

例えば、好きなアーティストに会いたい一心で、自分でチケットを取ってみる。
それまで行ったこともないようなライブに1人で参加する。1人でホテルに泊まる。
今まで人見知りだったのにライブ会場で平気で知らない人と話しかけて盛り上がる。
海外のアーティストを好きになり、行ったこともないような国に1人で出かける人もいる。
好きな人の話す言葉を理解したくて外国語を習いにいく。
好きな人のことを理解したくて、その人の国について調べてみたりする。
いろんな人と繋がる。
全国に世界に友人が広がる。

そんなふうに自分が自覚しないまま、世界が広がったり、行動を起こしている人が多い。

このように人を行動的にするエネルギーを持っているのが、「推し」という存在でもある。

 

つい先日もNHKの「クローズアップ現代」で『まだまだ拡大中!推し活パワーが社会を変える!』というタイトルで、「推し活」の持つエネルギーについて特集を組んでいた。

お菓子推しのファンが、

廃業寸前の老舗お菓子屋のお菓子を将棋の藤井聡太さんに食べてもらいたい一心でSNSに投稿したところ、

対局中のお菓子に選ばれ、老舗菓子店が復活した、というエピソードが紹介されていたりした。

また、心理学の面からも、愛知淑徳大学の久保(川合)南海子教授が出演し、

認知科学から提唱されたプロジェクションサイエンスという観点から「推し活」について話をしていた。

このプロジェクションサイエンスというのは、

アイドルやキャラクターなど外部の情報を自分で意味づけて世界を捉え直す心の働きのことで、キャラクターに意味づけをすると見えてくる世界が変わってくる、ということらしい。

コロナ禍の中、人々はオンラインでさまざまな活動をし、情報の共有や繋がりを持つことは出来たが、

感情のやり取りや雑談をするということの難しさも体験した。

その為、現場でリアルで対面しながら色々なことをシェアしていくということの有り難さとか楽しさというものに気づいたことが「推し活」の広がりに繋がっている、とのことだった。

 

かく言う私もJ-POPなどに全く興味がなかったのに、

「推し活」がきっかけで、今はJ-POPを評論する。

元々、クラシックの演奏畑出身の私はJ-POPは殆ど聞いたこともなかった。

それがある歌手が歌ったJ-POPの歌声に強烈に惹かれたことで評論を書くようになった。

まさに「推し活」から、仕事そのものが変わったのだ。

 

人は「推し活」をすることで知らない間に自分の中に眠っていた能力が開発されていく。

そんなエネルギーを持つのが「推し活」というものなのではないだろうか。

「推し活」の持つエネルギーは、大きな消費行動にも繋がり、経済を活性化している。

年間何十億というグッズの売り上げは「推し活」によって成り立っているのが現実だ。

そして、何より「推し活」には人を元気にするエネルギーがある。

病気の人が「推し」に会いたい一心で辛い治療にも耐え、病気を克服する。

鬱になりかけていた人が、「推し」を見つけたことで、気分がイキイキとして元気になる。

こんな話は、いくつでも転がっている。

「推し活」と言うと顔をしかめる人もいるが、

「推し活」は、その人の人生そのものも変えてしまうほどのエネルギーを持つ。

 

「推し活」とは、まさに活力の源なのである。