これは評論なので、必ずしもファンの方が満足するような内容にならないかもしれない、ということを最初に明記しておきます。それでも構わないという人だけ、この後を読むようにして下さい。
リトグリの新曲『Your Name』と既存曲『好きだ。』のCDTVでのパフォーマンスを拝見した。
素直な感想を言えば、3人でも十分やれるグループであるということを感じた。
芹奈の長期療養が発表されたのち、manakaの突発性難聴による休養という事態は、リトグリというグループそのものの存在理由をも脅かすに十分な出来事だと多くの人は感じるだろう。
正直なところ、ハーモニーの構成力という部分で言えば、manakaの休業はリトグリのサウンドそのものを根底から覆すのに値するほどの痛手だと思う。
これは、では芹奈の休養はそこまでのものではないのか、という比較論ではない。
各人の声質が持つパート割りを考えたとき、芹奈の受け持つパート、音域は、かれんやアサヒの音域に被ってくる。しかし、manakaの受け持つパートの音域は、MAYUが受け持つしかないのが現実だ。じゃあ、大丈夫じゃないか、と言えば、そう簡単なものではない。なぜなら、声質の問題があるからだ。
ハーモニーというものは、各人が持つ音域と声質によってパート割りが決まる。
ひと昔前までは、声質はそれほど重要ではなく、単に音域で出るのか出ないのか、そういう単純な理由でパート割りというものがされていた。しかし、今は違う。(いや、今でもそういう考え方が主流なのはわかる。その方が単純で簡単にパート分けができるからだ)本気で、ボーカルユニットを作ろうと思えば、声質というものは、非常に重要なアイテムになる。即ち、本格的なボーカルユニットは、その部分を加味してパート割りがされるということだ。
リトグリに於いては、この声質が非常に重要な鍵を担っている。
なぜ、音域がそれほど重要視されないかと言えば、音域は訓練によって伸ばすことができるからだ。特に高音部の音域というものは、訓練次第でどのようにも伸ばすことが出来る。しかし、低音域となれば、話は別だ。低音域はその人が持って生まれた音域以上に伸ばすことは困難だ。
これは、声帯の性質に大きく関わっている。
声を出すメカニズムの上で、声帯の動きを考えるとき、高音域はどのようにでも伸ばすことは可能だが、低音域は伸ばすことが出来ない。この話をすると非常に長くなるので、ここでは結論だけ話す。
即ち、人間は、持って生まれた低音域を伸ばすことは非常に困難なのだ。その為、低い音域を持つ歌手は希少な存在になる。
リトグリで言えば、低音域を持っているのは、MAYUとmanakaになる。この2人がハーモニーを構成するとき、しっかりと下支えしているから、リトグリのハーモニーは地に足をつけたものになる。
ところがこの2人の声質は全く異なる。
manakaがストレートボイスの声質を持っているのに対し、MAYUはやや幅のある声質を持つ。そして彼女の響きの音色は非常にソフトだ。即ち、2人の声質は全く違うのである。
これに対し、高音部を担当するかれん、芹奈、アサヒの声質はどうかと言えば、響きの音質的な違いはあっても、それほど変わらない。だから芹奈の抜けた部分をかれんとアサヒでは十分補うことが可能なのだ。
これは、ハーモニーを構成する、という点から話している。
決して、誰かの変わりを誰かが出来るということではない。5人の声質があってリトグリのサウンドというものは成立するのである。そこをファンの人は誤解のないように読み進めて頂きたい。
ハーモニーを作る、という点で考えたとき、manakaの声質の変わりが出来るメンバーはいないのである。
では、どうするのか、という話になる。
5人のハーモニーを継承するのではなく、3人で出来る新しいハーモニーの形を作る。
これが3人体制のリトグリと4人体制のリトグリの大きな違いなのである。
実際に昨夜のCDTVの彼女達の歌声を聴いた。
『好きだ。』は、既存曲であり、『Your Name』は3人で歌うことを前提にしたパフォーマンスで作られていた。
しかし、そのハーモニーは、3人でも十分にやれることを示している。
そして、『好きだ。』におけるハーモニーは、5人で歌う場合と遜色のない形で仕上がっていた。
3人の中で、一番、声質が変わっていると感じたのは、MAYUである。
彼女は中音から高音にかけて、非常に明確で綺麗な響きを出していた。これは彼女の持つ低音部の響きとは全く異なるもので、声を当てるポジションを意識的に変えていることがわかる。
元々のポジションではもう少し響きが太いソフトな音色になるが、声を当てる(響かせる)ポジションを変えることで、響きを中心に集め、芯のある硬めの声に作り上げている。響きがソフトに散らばらないような発声をしている。その為、かれんとアサヒの声質に非常に似通った響きの声になっているのである。
そうやって3人のリトグリというのは、統一感の高いサウンドに生まれ変わっていた。
さらにその統一感は5人の時のサウンドの広がりよりも細いサウンドなのかと言えば、これがそうではなく、しっかりと幅のある広がりのあるサウンドになっているのである。
これは、かれんの音質によるところが大きい。
中音域から低音域にかけては、今度はかれんがMAYUの音色に似せてきているのである。
そのことにより、低音域はしっかりと支えられる。
そしてアサヒの歌声は、以前より幅が増して、色艶のある声質に変わっている。
それによって、全体のハーモニーにか細さを全く感じさせないサウンドになっているのである。
5人のサウンドを作り替えるのではなく、3人のサウンドを新しく作った、という形になっていると感じた。
『Your Name』は三浦大知振り付けの話題の楽曲だ。
今までスイング程度のダンスで歌っているという印象のリトグリから、力強くダンスしながら歌うイメージに作り替えている。
彼女達もまた、三浦大知と同じようにハンドマイクでのパフォーマンスだ。
そしてボーカルがしっかりしていれば、どんなに激しいダンスになっても、息も上がらないし、歌も全くブレない、ということを彼女達は証明しきっている。
結局、ボーカル力が、パフォーマンスを成功させるかどうかの鍵を握っている、ということになるのだ。
3人体制がいつまで続くか、それは誰にもわからない。
だが、活動を休止しても不思議でない状況の中で、3人で歌うことを選択した彼女達の進化は目覚ましいものがある。
3人体制の中でしか得られない貴重な経験を彼女達は積んでいることになる。
この経験は、彼女達が長くボーカリストとして立っていく中で、将来、必ず大きな節目になっていく出来事を経験中だということだけは確かなことだ。
人生は長い。
歌手人生も然り。
2人のメンバーが休止しているという事実だけが目の前に横たわっているのであって、リトグリというボーカルグループの存在には何の影響も及ぼさない。
2人が復帰してきた後の彼女達のサウンドはさらに楽しみだ。
リトグリという存在が、日本の音楽界に与える影響を考えた時、ワクワクするほどの期待感がある。
1人のファンとして、どこまでも彼女達が成長していくことを願っている。