NHKの『Covers』で氷川きよしがカバーした『かもめはかもめ』は研ナオコの代表曲である。
この曲の2人の歌い方を検証した。
先ず、一番、感じたのは、氷川きよしのポップスの歌い方が非常に進化しているということだった。
いわゆる「響きを抜く」「語る」というポップスの定番の歌い方がしっかり身についている、ということである。
3年前、彼がポップス分野に進出してきた頃から、機会あるごとにカバー曲を含む彼のポップス曲を聴いてきたが、今回のこの曲が一番ナチュラルですっかりポップス曲のテクニックが身についているという印象を持った。
また全体的にスローなテンポで、歌詞の言葉の一つ一つを非常に大切に歌っているのがわかる。
いわゆる、「言葉を置きに来ている」という歌い方である。
この歌い方をするには、響きのコントロールと日本語の言葉のリズムに合わせた緩急と強弱のコントロールが必要になるが、この点で彼の歌は、言葉が明確に伝わり、単語の一つ一つが浮かび上がってくる。
この表現力が見事であり、歌全体が非常に落ち着いた雰囲気のものに仕上がっている。
これに対し、オリジナルの研ナオコの場合は、「語る」要素よりも「歌う」要素の方が大きい。
全体的にどのフレーズもしっかり歌っており、彼女の歌に「語る」という要素はほとんど見られない。
これらが2人の歌の大きな違いであり、時代的にも、現代のJ-POPには「語る」要素が強く、研ナオコの時代には、あくまでも「歌う」要素が強かったと言えるのかもしれない。
いずれにしても、今回の歌で一番感じるのは、氷川きよしの歌唱力の進化であり、彼がどんどん新しい世界を切り開き、変化していくのを感じる。
演歌からポップス分野に進出したことで、氷川きよしという歌手の音楽の世界が無限に広がった、ということを感じる。
ジャンルに捉われず、性別に捉われず、自由に自分の世界を表現している姿は、歌手として、何歳からでも変化できるのだという可能性を示すことになった。
彼がどのようなジャンルに音楽の幅を広げていくのか、今後の進化が楽しみでもある。