氷川きよしがFNS歌謡祭で歌った『限界突破✖️サバイバー』を久しぶりに拝聴した。
一言で言えば、非常に力みが取れて、すっかり演歌歌手のカテゴリーが外れた、と思った。
彼の生歌を初めて聴いたのは、2019年9月6日の大阪城ホールで行われたライブだ。
この日、たまたま彼はバースデーだった。
そして彼は「今日から演歌歌手というカテゴリーを外します」と宣言した。
まさにジャンルを超えた歌手になろうとしたその記念すべき一夜に私はたまたま遭遇したのだ。
この日の彼のコメントで私の中に深く印象に残った言葉は、「ありのままの自分を表現したい。ありのままの自分がなぜいけないのか」というメッセージだった。
それからの彼の活躍は記憶に新しい。
今まで氷川きよしという歌手が20数年かけて作り上げてきたイメージを一気に払拭するかのように、
新しいジャンル、新しい曲、新しいスタイル、新しいパフォーマンスと「自分」というものを表現し続けてきた。
最近の彼の中には、演歌、というものはすっかり一つのジャンルであり、ロックやポップスとなんら変わらない並列の氷川きよしという歌手の音楽の世界を現すカテゴリーの一つでしかない、という存在に落ち着いたと思う。
私は演歌を歌う彼も嫌いではなかった。
しかし、今の彼の方がずっと魅力的だ。
「自分をありのままに表現したい」というのは、アーティスト、クリエイターの永遠の願いである。
確かに彼の変貌についていけないファンも多数いただろう。
しかし、クリエイターに批判はつきものであり、時代を超えたパイオニアになっていくには、自分の世界を貫くしかないのである。
久しぶりに彼の歌を聴いて、以前のような力みがすっかり消え、非常に軽いタッチで歌えるようになっていた。
これは、彼の中のポップスやロックに対する変な構えがなくなり、自然体になった証拠である。
今の彼は、非常に魅力的。
彼が、もっと音楽を追求し、オリジナルな世界を作り上げることを期待する。
若い世代や男性ファンも増えてきている。
彼のもっと振り切った音楽の世界を見てみたいと思った。
文責 松島耒仁子(音楽評論家)