毎月新曲をリリースするというコンセプトの第5弾。
今回は完全にバラードだ。
この5回、配信されるたびに思うのは、セルフプロデュースがかなりしっかりしている、ということ。
アーティストが生き残っていくのに一番大切なことは、どれだけ自分の引き出しを持っているか。
音楽というチェストの引き出しの中にどれだけのものを持っているか、それが重要になる。
ワードロープの中が、
同じような服ばかりだと飽きてしまう。
同じような形、同じような色合い。
確かにそれはそれで魅力的かもしれない。
しかし、そればかりではつまらない。
次々、新しい形、新しい色合いを提示出来ること。
それがワードロープの多さに繋がり、それだけ変化に富んだものになる。
それと同じように、アーティストは、どれだけ様々な色の音楽を自分の中に持っているのか、それが重要だ。
常に変化し続ける、新しい自分を見せる。
そういう冒険を繰り返しながら、だんだん自分のオリジナリティー、これ、と言ったものを作れるのが一番強い。
歌手にとって30代は、非常に重要な年になる。
なぜなら声帯のピークは、30代から40代前半に訪れるからである。
心身共に充実しているこの時期に新しいことに十分挑戦していくことが、その後のアーティスト人生にとって財産になる。
そういう意味で、手越祐也の6ヶ月連続新曲配信というのは、それだけでも新しいし、さらに彼が次々、いろんなジャンルの歌を披露しているというのが、本当に素晴らしい。
6ヶ月連続で新曲を配信するというのは、口で言うほど容易いものではなく、なかなか出来ることではない。
ある意味、彼も挑戦なのかもしれないが、十分、成功していると言えるだろう。
さて、前置きが長くなってしまったが、この曲は非常にスローテンポの曲である。
一つ一つの言葉がわりと平坦なメロディーの上に載せられて、リスナーが十分にその歌詞の言葉を追う時間を与えられている。
それゆえ、どのように言葉を伝えていくかが、非常に重要な鍵になる。
メロディー全体は、甘い作りになっており、サビまでのAメロ、Bメロも含めて、彼はたっぷりとした豊かな声量で歌っている。
この曲を聴くと彼の声の魅力が良く伝わってくる。
どの音域も透明感溢れる音色であり、甘い音色になっている。
またたっぷりとした声量は伸びやかで、高音域のファルセットへの転換もボリュームダウンがなく、スムーズに行われている。
これは彼が日頃からしっかりとボイストレーニングが出来ている証拠であり、声帯のコンディションが良いことを示している。
彼は圧倒的声量でグイグイ押すタイプではないが、伸びやかで豊かな声量で、どんなメロディーにも対応できるのは、彼の強みと言えるだろう。
音色は明るく、それだけにこの曲がバラードでありながら、爽やかな仕上がりになっているのは、彼の持つ音色が楽曲に清涼感を与えているせいでもある。
言葉ひとつひとつを丁寧に横に並べながら、発音をしており、言葉の明瞭さは、いつものことながら流石である。
言葉のタンギングもポイントごとで鋭角に鋭くアタックされており、まるで見本のような発音だ。
この点ひとつ取っても、彼がこの曲をかなり歌い込んだことがわかる。
芯のある地に足ついた良い歌声である。
と、いつも彼の曲をレビューすると絶賛する形になるのだが、彼の歌を聴き始めて一年近く。
いい意味で私の期待を裏切り続け、評論家として、純粋に「書きたい」と思わせてくれるアーティストの1人であることは間違いない。
来月に発売されるアルバムを楽しみに待ちたい。