今のJ-POP界の特徴は、多種多様で雑多な音楽が混在している。

それはいわゆるポップスだけでなく、ロック、バラード、R&B、ヒップホップ、VOCALOID、アニソン、テクノポップなど実に多種多様な音楽がそれぞれの分野で存在感を示しているのが現代のJ-POPの特徴と言える。

そういう中で、アーティストが存在感を示していくには、様々なジャンルの音楽を歌いこなせる力量が求められる時代でもある。

以前のようなジャンルを決めて楽曲を提供するスタイルから、ジャンルを決めずに楽曲を提供するスタイルを持つアーティストの方が意外性があって存在感を示せるのではないかと感じる。

そういう点で手越祐也という歌手は、どんなジャンルでも歌いこなせるだけの力量を持つのではないかと感じてきた。それを証明するかのように今回の楽曲は、デビュー曲として配信された『シナモン』とは全く違う様相を示している。

アップテンポの楽曲は、彼がVOCALOID音楽でも十分に対応できるだけの力量を持つ歌手であることを証明している。

彼の力量の確かさの一つでもある濁りのない響きは、響きの中心にしっかりとした核となるべき芯を持っていることにある。この芯のある響きは、一朝一夕にできるものではなく、長年彼が、コツコツと地味に築き上げてきた努力の賜物である。安定した響きは、歌唱力の根底を支え、どのような楽曲が来ても破綻なく対応できるだけの強さを持つ。

さらに彼の強みに言葉の明確さがある。

どんなにアップテンポの楽曲であっても、非常に明確な発音による歌詞の伝道力がある。

この二つの柱が手越祐也が、十二分にソロ歌手として通用する力量を持つことを証明している。

『シナモン』で優しい音色によるライトポップスの世界を表現した彼は、今回の『ARE U READY』でアップテンポのVOCALOID仕様の楽曲の世界も十二分に表現しきった。

VOCALOID音楽の難しさは、アップテンポの楽曲の中で如何に音程を正確に、また言葉を明確に伝え切れるかにかかっている。その難しさを彼は十分にクリアしたと言えるだろう。

これは彼が昨年、様々なカバー曲を配信していく中で培った表現力と歌唱力が生かされているように思う。

 

アーティストが長く活動を続けていくには、如何にたくさんの引き出しを持っているかにかかっている。

それは表現力や歌唱力、さらにはオリジナル性など、ありとあらゆる部分でたくさんの引き出しを持っている人が長く聴衆に飽きられることなく活動していけるということを示している。

歌手の意外性に触れるとき、聴衆は驚きと共に喜びを感じ、さらにその歌手の魅力に嵌まっていくからに他ならない。

そういう意味で、手越祐也の引き出しには、どんなものが詰まっているのか非常に興味深い。

おそらく彼は今後、自作曲にも挑戦していくことだろう。

そういう可能性を十分示している今回の楽曲である。