昨日放送された山口百恵のラストコンサートを観た。

実はこのコンサートが昨年秋にBSで放送された時、私は録画したまま忙しさにかまけて放置していたものである。

今回、多くのリクエストに応えて一度きりの地上波放送ということでずいぶん話題になっていた。

私は当然、百恵ちゃん世代で、彼女がデビューした時から引退までの当時をリアルに経験した世代でもある。

その時の記憶が今も鮮明に残るほど、彼女は記憶の中で一切歳を取らない。

これが伝説の歌姫と呼ばれる所以なのだろう。

個人的に言えば、あの頃、40年後に彼女のコンサートレビューを書くことになるとは、想像もつかなかったのだから、人生はわからない。

あの頃、漠然と「彼女は歌がうまい」と思っていた理由が、今回、彼女の歌をあらためて聴いてハッキリわかった。

彼女は歌が上手いのである。

 

1980年10月5日。

日本武道館で彼女はラストコンサートを開いた。

歌った曲は以下の28曲(メドレーを含む)

1.Overture(前奏)
2.This is my trial
3.横須賀サンセット・サンライズ
4.I CAME FROM 横須賀
5.プレイバックPart1
6.プレイバックPart2
7.絶体絶命
8.イミテイション・ゴールド
9.愛の嵐
10.夢先案内人
11.謝肉祭
12.横須賀ストーリー
13.スター誕生AGAIN

14.Medley
・ひと夏の経験
・禁じられた遊び
・冬の色
・湖の決心
・春風のいたずら
・青い果実
・としごろ

15.ロックンロール・ウィドウ
16.いい日旅立ち
17.一恵
18.曼珠沙華
19.秋桜
20.イントロダクション・春
21.不死鳥伝説
22.歌い継がれてゆく歌のように
23.さよならの向う側
24.This is my trial(後奏)

 

以下は私が感じた簡単な各曲の感想だ(全曲ではありません)

2.「This is my trial」から始まる歌声は、これで歌手人生を終えるという彼女の決意を表すような毅然とした歌声だった。

3.「横須賀サンセット・サンライズ」 早口のアップテンポでの言葉の処理と張りのあるサビの歌声の対比が見事。
4.「I CAME FROM 横須賀」かなり言葉数が多いにも関わらず、言葉が横に流れずに明確。
5.「プレイバックPart1」歌声の響きが固定され、綺麗に全ての歌声の音質が統一されている。

6.「プレイバックPart2」言葉の語り口が見事。前半部、かなりの早口で歌うにも関わらず言葉が明確に立っている。声を張るところは響きが固定され、早口の部分との対比が見事。

7.「絶体絶命」力強い歌声。
8.「イミテイション・ゴールド」響きを抜いても言葉は明瞭である。

9.「愛の嵐」

10.「夢先案内人」力を抜いてリラックスした歌声。
11.「謝肉祭」歌声の響きが綺麗に鼻腔に当たっている。声を張るところと響きを抜いて早口で処理するところの対比が見事。

12.「横須賀ストーリー」

13.「スター誕生AGAIN」彼女の歌にすれば、全体的にテンポが早くない。その分、言葉のタンギングがハッキリしていてよくわかる。

14.Medley
・ひと夏の経験
・禁じられた遊び
・冬の色  声の統一感が強い一曲。ソフトで響きだけで歌っている冒頭のフレーズからサビに向かうに従って張りと色味が増してくる。
・湖の決心
・春風のいたずら
・青い果実
・としごろ

15.「ロックンロール・ウィドウ」
16.「いい日旅立ち」全体的に力を抜いて軽く歌っているという印象。
17.「一恵」歌うというより語るに近い冒頭の部分が印象的。全体的に力を抜いて歌っている。
18.「曼珠沙華」高音の張りが見事。
19.「秋桜」彼女の語り口の集大成とも言える歌。これだけの言葉数を綺麗に横に並べて歌えるのは彼女しかいない。
20.「イントロダクション・春」
21.「不死鳥伝説」
22.「歌い継がれてゆく歌のように」彼女の感謝の気持ちを会場の隅々まで届けるという心を感じさせる歌。
23.さよならの向う側
24.This is my trial

 

今回、あらためて彼女の歌を聴いて思ったのは、非常に伸びやかな歌声の持ち主であるということ。

当時の印象として、これほどに艶やかな高音を持っていたという記憶はない。

彼女の歌声の特徴を羅列してみると、先ず、綺麗に鼻腔に響いた歌声であるということ。非常に歌詞が明瞭で、声を張るところと響きを抜くところの対比が見事。

歌謡曲の王道を行く歌姫という印象を持った。

 

以前から彼女の歌の上手さは、その卓越した語り口にあると感じていたが、今回、あらためて聴いてもその印象派変わらずだった。非常に響きを抜いて、早口で言葉を明瞭に処理する能力に長けている。

それはどうしてそのような処理の仕方ができるのか、今回、彼女の口元を見ていてわかったのは、彼女の口角から下顎にかけて、力が抜けているということである。余分な力がどこにも入っていないのだ。だから、あのようにかなりのアップテンポの早口で言葉数が多いものでも難なく歌いこなして来れるのだろう。

早口で言葉を処理している時も、声を張り上げてしっかり歌っているときも彼女の下顎には余分な力が一切入っていない。非常に柔軟な下顎をしている。

歌を習ったことがある人ならわかると思うが、この「下顎の力を抜く」というのが非常に難しい。

歌の基本はここから始まり、ここに終わると言ってもいいほど、この部分は非常に重要なテクニックで、多くの歌手がこれができているかと言えば、非常に懐疑的である。

彼女の場合、下顎に余分な力が入らず、非常に柔軟な動きをする。それゆえにどんなに早口の言葉数の多い歌詞でも明瞭な発音で歌うことが出来る。

さらに彼女の口元を見ていると、必要以上に縦に開かない。どちらかと言えば、横に開く形に固定されており、縦に開く発音は、全て口中で処理されていく。これが響きが固定する要因であり、綺麗に言葉が一本の線上に並んでいくのである。

この形で謳われているのが、秋桜であり、この曲は、彼女の歌の特徴的なものの集大成とも言える一曲である。

この曲はどんなに多くの歌手がカバーしても彼女には及ばない。彼女の秋桜は、非常に軽く力を抜いた形で綺麗に言葉の粒がメロディーの線上に並べられていく。響きは固定され、微動だにしない。見事である。

 

彼女はまるで息をするように歌うのである。

これが彼女の歌の特徴である。

また、観客と自分との間に距離を置くタイプであり、非常に客観的に歌う人である。

それが今回、あらためて彼女の歌を聴いて感じた感想だ。

 

「精一杯、さりげなく生きて行きます」と語ったように

彼女は、さりげなく歌って去っていく人だった。