Jupiterでデビューした平原はクラシックの楽曲をカバーすることで彼女独自の世界を確立しつつあると言える。

デビュー曲が余りにも有名になりすぎた時、歌手はその曲のイメージに引きずられやすい。えてして同じような曲想のものを無難に続けることで結局は二番煎じになる危険性を持ったり、反対に全く違う雰囲気の曲を歌うことでイメージチェンジを図ろうとしたりする。

彼女の場合はデビュー曲がクラシックの楽曲をカバーしたものという特異なジャンルからの出発だった。
しかし彼女は、自分に被せられたイメージを逆手に取り、その後の数年間で見事にクラシックの楽曲をカバー出来る実力派の歌手になった。

彼女の歌声の特徴は広い音域とコントロールされた発声にある。
丁寧に発音される日本語の明確な歌詞の言葉のつ一つ一つと共にその歌声は見事に音色と響きを揃えてくる。
いわゆるクラシック的な発声と言えるだろう。

しかしクラシックの歌手のような響きとは言えない。彼女の歌声はあくまでも透明的でどちらかと言えば無色に近い。
ときおり濃厚な響きを見せる音域があり、その声を聴けば彼女の歌声が実は非常に太い響きの持ち主であることがわかる。その太い響きを封印しブレスを声に意図的に混ぜて透明的な歌声の響きに仕上げている。

器楽曲を歌う場合、聴衆は器楽の音に慣らされている。
この曲で言えばピアノの透明性高い音だ。
その音を使うことを前提に書かれたピアノ曲を人間の声で歌う場合、その細やかなパッセージ(音の動き)などを再現するには濃厚な響きではどうしても重くなりがちで音楽の動きが悪くなる。

平原はその細かなパッセージに対して無色に近い音色で歌いあげることでピアノ曲としての聴衆のイメージを壊さない歌に仕上げている。

後半のメロディーの高揚感を彼女は非常にコントロールのよく効いた歌声でエネルギッシュに歌い上げてくる。それは前半部分の抑えた透明性の高い歌声とは全く別の響きになる。

この曲に使われている彼女の歌声の色は多種多様であり、低い部分では透明性の中に太いソフトな響きが存在し、中音域に於いてはどちらかと言えば直線的で無色に近い色合いを見せる。高音になれば透明な無色の響きと濃厚で力強く響かせてくる音色とを使い分けてくる。

このように彼女の歌声は非常に多色だ。

これが彼女がクラシックの器楽曲を歌えるテクニックを根本から支えるものとなる。

彼女もB’zの稲葉と同じように非常にストイックで声帯を大切にした生活をするので有名である。

たとえば彼女は寝具を身につけた上から首元だけスカーフで覆い、さらにマスクをつけて寝るほど声帯の乾燥には十分な注意を払って休んでいる。

声帯にとって乾燥は最大の敵であり、昼間は十分に注意している歌手でも就寝中の管理までは行き届かず加湿器をつけるくらいの注意しかしない歌手は多い。

しかし就寝中が実は歌手にとっては最もリスクが大きくなる。

歌手でなくとも朝起きた時に「あれ、喉が痛い」と感じる経験は誰にでもあるだろう。これは風邪のウイルスによるものもあるが、殆どは、空気の乾燥によって無意識の口呼吸による喉の乾燥に原因がある。

彼女の就寝中のマスク着用はそのリスクを大幅に回避することが出来る。また首元をスカーフで覆うことも就寝中に首元の筋肉が冷えてしまうことへのリスクの回避と言える。

これほどの注意を払って彼女は自己管理している歌手でもある。
だからこそ、これだけの歌声を保つことが出来るのだろう。

昨今のミュージカル進出と言い、彼女は彼女だけの音楽の世界を確立しようとしている。