緊急事態宣言が解除になった10月1日、平原綾香のコンサートに大阪フェスティバルホールに出かけた。

6月に行われるはずだったコンサートの延期日程だった。

 

今年も音楽業界はコロナに振り回された1年だった。ライブが開けなくなり、活気がなくなった。

そんな中でも感染対策をして開催されたものもある。

私は、6月に玉置浩二や、松田聖子、氷川きよし、リトグリなどのコンサートに出かけたきりだった。

 

毎年、どうしてもこの人だけは聴きたい、と思うアーティストがいる。

平原綾香はそういう存在の1人だ。

彼女のコンサートに初めて行ったのは、3年前。堺フェニーチェホールのこけら落としだった。

その時のコンサートが素晴らしく質の高いものだったので、また、行きたいと思うようになった。

そして、彼女は今年も、その期待値を遥かに越えてきた。

 

コンサートは2部構成のアンコールも含めて全21曲。

クラシックあり、ミュージカルあり、盛り沢山の内容だった。

21曲も歌ったのに、そんなに長く感じられなかったのは、1曲、1曲の内容が素晴らしく、充実したものだったからなのかもしれない。どの曲も非常に完成された歌声とパフォーマンスだった。

彼女の素晴らしさは、まさにその声の種類の豊富さにある。

低音部はソフトで幅の広い響きをしている。低音部を彼女が歌うと、私の膝上に置いているバッグが共鳴振動を起こしていた。それぐらい声の振動が素晴らしい。

そして、細く鳴り響くホイッスルボイス。

ハイトーンからの転換は見事だ。

まさに彼女が言うところの「サックスを吹くように歌う」と言うスタイルの実現である。

サックスにアルトやソプラノなど、幾つかの種類によって、音色が変わるように、彼女の歌声の音色も変わる。

これが平原綾香の持ち味だ。

 

私が彼女の曲の中で一番好きな曲、『マスカット』

これが生で聴けたのは、本当に嬉しかった。

この曲は、彼女を幼少の頃から知っている玉置浩二が彼女の成長を見て作った楽曲であり、愛情溢れる楽曲だ。

テクニック的には、非常に難しいものを要求される楽曲だが、彼女は、それを非常に軽く、丁寧に歌っていた。

言葉の明確さや、リズムの刻み、声の躍動感など、申し分なく、歌い込んでいる一曲、という印象だった。

 

プログラムの最終曲に『Jupiter』を歌った。

デビュー当時、この曲は、正直、私の中では、あまり好きな曲ではなかった。

クラシック畑出身の私は、当時、シンフォニーを歌う彼女の歌に少し違和感を持ったのを覚えている。

しかし、あれから18年、『Jupiter』は見事に彼女の楽曲として、定着していた。

 

最近の彼女の歌声は円熟期に入り、非常に濃厚で充実した響きを見せている。

また表現力やテクニックにおいても、この数年で、長足の進歩を見せているのは、彼女が弛まず努力し続けてきた証でもある。

 

「フェスティバルホールで歌うなら、是非、アカペラで歌うといい。ホールの良さが発揮されるから」と彼女に提案したパーソナリティーの道上洋三さんの言葉を守って、フェスティバルでは他の会場のコンサートよりも1曲多い、と彼女は紹介しながら、「入院中の道上さんに届けたい」とアカペラで最終曲の『君の声が聞こえる』を歌った。

マイク無しで歌われたこの曲は、3階の会場の隅々まで彼女の伸びやかで豊かな声が響き届いて、圧巻の歌唱だった。

 

彼女はまだまだ上手くなる。

伸び代がまだまだ残っている。

きっと日本を代表する歌姫になるだろう。

 

そう確信した夜だった。