たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

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今回扱うのは、男女混合の4人組ポップ・ロックバンドである緑黄色社会。昨年のNHK紅白歌合戦で歌ったことで記憶にある方も多いのではないでしょうか。結成11年目、メジャーデビューして5年目というバンドですが、独特のサウンドを持ち、若い世代から絶大な人気と支持を受けています。彼らの作り出すサウンドの特徴や、楽曲作り、また、ボーカルを担当する長屋晴子の歌声の魅力についても書いていきたいと思います。

前編はこちら)

透明感と濃厚さを併せもつ、長屋晴子の歌声

リョクシャカの音楽の魅力はなんと言っても長屋晴子の歌声でしょう。彼女の歌声を音質鑑定と言って、歌声の持つ音質の特徴を簡単に分析してみると以下のようなものになります。

  1. 声域は中声区の少し高めのメゾソプラノ。

  2. 音域は広く、低音域から高音域までカバー出来る。

  3. 響きは透明的な無色の響きと、濃厚で艶やかな響きの2種類を持つ。

  4. 伸びやかな声質で響きに混濁がない。

  5. 声の幅は太めでソフトな響きを持つ。

  6. 滑舌は悪くなく、ことばのタンギング(子音の発音)や母音には癖がない。

このような特徴を持つ長屋ですが、この中でも特に独特なのが、透明な響きと濃厚な響きの2つを持つ、という点です。

彼女の歌声については、「透明性のある魅力的な歌声」という特徴を表したものが散見しますが、彼女の場合、楽曲や音域によって、透明な響きが主体になった歌声の部分と、濃厚で太めの響きが主体になった歌声を使い分けているという印象を私は強く持ちます。

確かにミニアルバム『溢れた水の行方』の中の『視線』では、非常に透明感溢れる歌声が曲全体を覆っており、無色の澄んだ水を思い起こさせるような音色の歌声が広がっています。

このアルバムは、彼女が23歳の頃のものですが、彼女がまだ20代前半の肉体的に成熟していない声帯だったから、そのような歌声になっていたのかと言えば、そうは言い切れません。

なぜなら、同じアルバムに収録されている『Never Come Back』では、非常にパワフルで濃厚な響きの歌声を披露しているからです。

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彼女の場合は、低音域から低めの中音域にかけては、透明感溢れた無色に近い音質のソフトな歌声になり、高めの中音域から高音域にかけては、濃厚でハスキーさや透明さなどを感じさせないパワフルな歌声が展開されていく、ということになります。また、楽曲のテイストによって使う歌声を変えていると言えるかと思います。

長屋晴子の歌声の特徴として、ブレスを多く混ぜたブリージングボイスで透明な響きを作り出しているところと、響きの芯を抜いて歌うというテクニックで透明感溢れるものにしている部分があります。

それとは反対に、ブレスをしっかり顔の前面に当てて、濃厚でパワフルな響きを作り出しているものもあり、さらに高音部では響きを抜いたファルセット気味のヘッドボイスなど、大きく3つの音質を持った歌声なのです。

このヘッドボイスも基本的には響きに色がなく、透明感の強いものになっています。彼女は、これらの歌声を組み合わせることによって、その楽曲の世界観を描き出していると言えるでしょう。

さらに彼女の歌声を魅力的にしているものに、メンバーが作り出すサウンドがあります。このサウンドが、ボーカリスト長屋晴子の歌声を何倍にも何十倍にも魅力的にしているのです。

メンバー全員で紡ぎ出すサウンド

リョクシャカの音楽を語るときのもう1つの特徴であるサウンド。これは彼らならではの独特のものとなっています。

リョクシャカの楽曲は、全ての曲をメンバー達で作っています。すなわち、そのサウンドとなるアレンジに於いても、メンバー全員で話し合いながら進めていく、という手法です。

ギター、キーボード、ベースという布陣ですが、多くのバンドが持つドラムスがありません。ドラムの力強い音の代わりに際立つのがpeppeの奏でるキーボードです。このキーボードの音が、イントロだけでなく、楽曲の随所に散りばめられ、サウンドに透明感を与えています。

たとえば、『リトルシンガー』はメロディー作りもアレンジも全員で決めて行っていますが、音の重なりも清涼感溢れたものになっており、特にキーボードの音が印象的に楽曲全体を彩っています。

彼らの作り出すサウンドは、非常に音が澄み切っています。また、縦に刻まれる音楽の流れではなく、横になだらかに力強く流れていく音楽になっています。

音の重なりは幾重にもなっているのですが、その重なりには重厚感はなく、明るく軽い印象を受けます。また、音楽がテンポ良く前へ前へと進んでいくのです。その明るいサウンドが長屋晴子の歌声をしっかり下支えしていると言えるでしょう。

また、ときおり挟み込まれる小林の歌声やメンバーの歌声が、さらにサウンドの幅を広げているということが言えると思います。

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アルバム『Pink Blue』という革命

 

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