昨年10月に宝塚歌劇団を退団した元星組トップスター紅ゆずるの芸能界デビュー公演1stソロコンサート「紅-ing!!」を観劇してきた。
紅ゆずると言ってもヅカファンでない人にはさっぱり誰だかわからないと思うが、宝塚を退団後、松竹エンタテイメントと契約。女優としての一歩を踏み出そうとしている人である。
そして私の文句無しの推しメンだ。
彼女の何が好き?と聞かれれば、彼女の生き様そのものが非常に好きだ。
決して諦めない心、「諦めずに努力すれば、必ず夢は叶う」ということを身を持って証明した人。
「こんな舞台の端の端にいた人間を見つけて、ステージの真ん中に押し出してくれた宝塚は素晴らしい場所」と言い切る彼女自身が最も人間的に魅力的だ。
紅ゆずると言えば、落第生からトップまで昇り詰めた苦労人として有名で、音楽学校から入団時の成績もドベ2で、初舞台のラインダンスでは上級生から「一人だけ恐ろしく踊れない子がいる」と有名になった。ずっと舞台の端の端にいたにも関わらず、宝塚が好きで好きで舞台に立てるだけで幸せと言い、役もセリフもない時期をずーっと過ごしてきた人である。役を貰えない時期は自分で勝手に役を設定しては、その人物になり切って演技を考え、舞台の端で演じ続けた。その努力を見逃さなかった演出家の小池氏が新人として出演できるのは最後となる7年目の新人卒業公演で彼女にいきなり主役を与えた話は余りにも有名だ。
発表時、「紅ゆずるって誰?」と思われたほど無名に近かった。本人はどうせ今回の新人公演も何も役などないだろうと配役発表の日も自宅で寝ていて、電話の履歴がジャンジャン入っているのを見て慌ててお稽古場に行ったというのだから、抜擢に一番意外だったのは彼女自身だったかもしれない。
その後は、本公演でも役を貰い、順調にトップへ路線の階段を登っているように見えたにも関わらず、二番手まで昇り詰めた後、2年という期間、トップ就任を待たされることになるのだから、まさに苦労人と言える。
そうやって入団してから16年目にしてやっと彼女はトップスターの座を獲得した。
優等生の多いトップスターの中で彼女は最初から異色の存在だった。生粋の大阪生まれ、大阪育ちの彼女は、今までのタカラジェンヌのイメージをある意味壊すような存在だったかもしれない。
最も得意とするものはコメディー。大阪人特有のボケとツッコミの独特のトークは、台本にないアドリブだらけで共演者泣かせ。最初から彼女の台本にセリフがないことも多く、演出家の先生から「最初から最後まで紅の好きなようにやれ」と言われる始末。
今までのタカラジェンヌのイメージを覆した。
落語の「地獄百景」をモチーフにした「アナザーワールド」は彼女の代表作であり、機転の効く彼女だからこそ成立した作品であると言える。
「宝塚が好き過ぎて辞めれないと思ったから」と言って、トップになった時に「最初から5作品でやめようと決めていた」と彼女は言った。
その彼女が退団後、本格的に芸能活動を始動したのが今回のソロライブ「紅-ing!!」である。
宝塚の異端児と呼ばれた彼女の魅力満載のステージだ。単に「歌」や「ダンス」だけでなく紅ゆずるにとって欠かせないエッセンスが効いた舞台だった。
彼女自身が作ったキャラクター「紅子」も下級生達とのグループ「紅5」も健在だ。
紅ゆずるの大ファンを自称する劇場案内係の「紅子」は彼女自身のファンへの願いを代弁していて実に面白い。
「宝塚をやめたゆずるちゃんを応援する」
「紅子もゆずるちゃんと同じように宝塚大劇場の案内係を辞めました!」
「一生ゆずるちゃんについて行く」
「ゆずるちゃんの道は紅子の道!」と言って、名曲「マイ・ウェイ」を歌い出す始末。
彼女の強烈なファンへのメッセージは、紅子語録そのものだ。
ファンに話しかけ、反応が悪いとツッコミ、反対にファンから突っ込まれるとボケる。そこには、ファンへの絶対的信頼感とファンをこよなく愛している彼女の気持ちが現れる。
長年、宝塚のファンだが、こんなスターは見たことがない。
等身大で素直に自分を曝け出す。
彼女の魅力は自分をありのままに見せる姿。
かっこよさもかっこ悪さも全てひっくるめて「紅ゆずる」である。
楽しくて笑いが絶えない。
ステージが終われば、「ああ、楽しかった」
ゴールデンボンバーの歌広場さんが大ファンを自称するほど、魅力的な彼女のステージだ。
「紅ゆずるは紅ゆずるの道を行く!」と言い切った彼女の潔さが彼女の最大の武器だ。
彼女は進化し続ける。
進化し続ける人こそが最も魅力的なのだ。
「夢は叶う。それを教えてくれたのは宝塚。あきらめなかったら夢は叶う」と言った彼女が新たにどんな夢を見ているのか、非常に興味深い。
私も紅子と一緒に「紅ゆずる」を応援し続けたい。