たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、J-POP界の中で異彩を放つロックバンドKing Gnuを扱います。King Gnuは、知っている方も多いと思いますが、キングヌーと読みます。数年前に彼らが初めてテレビの音楽番組に出演した際のことは、今でも私の記憶に残っていて、レベルの高い音楽を放つ集団という印象を受けたものでした。その後も彼らの音楽には、独特の世界観があると感じます。バンドの成り立ちのインタビューなどから、彼らの作り出す音楽の世界や、その世界を描き出す井口と常田の歌声の魅力について書いてみたいと思います。
(前編はこちらから)
ボーカリストを二人持つバンドの、強い表現力
楽曲の魅力というものは、その曲そのものの音楽性も大きいとは思いますが、私はやはりその音楽を伝えるボーカリストの力というものが非常に大きい要素を占めていると考えます。
そういう視点でKing Gnuの音楽を捉えてみると、そこには、井口と常田という2人のボーカリストを持つバンドの表現力の強さというものを感じずにはいられません。
歌手の歌声の分析を評論の中心に据えている私としては、King Gnuの2人のボーカリストの歌声というものは、非常に興味深い対象と言えるでしょう。
私が彼らの歌声を初めて聴いたのは『白日』で、その後の『三文小説』での井口の歌声には、驚愕した記憶があります。
井口の歌声と常田の歌声の特徴は全く違います。この2人の歌声を音質鑑定してみると下記のような特色を持つことがわかるのです。
井口の音質鑑定
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全体に声の幅は細い。
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声域はテノール。
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響きに混濁はなく、澄んだ響きをしている。
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中・低音域ではやや幅のある甘い響きが主体になり、高音部では細い透明感のある響きが主体になる。
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声の中心に芯のある響きだが、全体の印象はソフト。
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甘い響きは鼻腔に響いており、透明感のある響きは、頭頂部に綺麗に抜けている。
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ことばのタンギング(子音のアクセント)には癖がなく、非常に明瞭。
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滑舌は悪くない。
常田の音質鑑定
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全体に声の幅が広い。
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声域はバリトン。
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響きが混濁しており、さまざまな音色の響きをしている。
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響きは散っている印象はなく、中央に集まって太めの音を奏でている。
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尖った響きではなく、どちらかと言えばソフトなボワンとした響き。
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声量がある。
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全体に、鼻腔に響いた音色をしている。
このように、2人が持つ歌声は全く違うものであることがわかります。
井口と常田の歌声は、正反対にして…
続きはこちらからKing Gnu『4つの音が主張し合う新しい音楽の形』(後編)人生を変えるJ-POP[第39回]|青春オンライン (note.com)