たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、昨年6月に喉の不調でツアーを中止、年末の紅白歌合戦において、見事に復活して歌声を披露した女性ボーカリストSuperfly(越智志帆[おちしほ])を扱います。
(前編はこちらから)
魅力的な歌声をとことん鑑定する
Superflyこと、越智志帆の魅力はなんと言っても、伸びやかな高音とパワフルな歌声にあると言えるでしょう。彼女の歌声を音質鑑定してみました。
越智志帆の音質鑑定
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声域は、低音部から高音部まで広い
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地声とミックスボイス、そしてファルセットを持つが、ほぼ地声かミックスボイスで歌っている
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響きの幅はやや太めでハスキーさは感じられない
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全体に柔らかなトーン。また、声の中心部も尖った音質の印象はない。
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非常に伸びやか
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明るめの音色を持つ
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低音域から高音域までほぼ響きが変らないという特徴を持つ
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明らかなボイスチェンジがなく、1つの響きで低音部から高音部まで統一されている
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パワフルだが尖った響きはなく、全体に滑らかなビブラートを持つ
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ビブラートの種類は細やか
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声量は非常に豊かで、音域によって差を感じることはない
このような歌声の音質を持つ彼女の大きな特徴の1つに、普段の話し声と歌声の印象に差異を感じることがあります。
彼女の場合、ロックシンガーであり、楽曲にはパワフルな歌声を要求するものが多いです。そのため、非常にピンと張った豊かな声量の歌声の印象を持ちますが、普段の話し声は、大きな声の印象はなく、どちらかと言えば、小さな声で物静かな印象。
さらに、歌声には見られない少しハスキーな響きが話し声には散見されます。これは、おそらく歌声の時と話し声の時の響きの共鳴腔が違うのでしょう。
また、彼女のパワフルな歌声には、ロックシンガーにありがちなシャウトする部分が見られません。シャウトというのは、強く叫ぶような歌声のことで、声に負荷をかけて、わざと響きを歪ませてインパクトの強い声を出すことを言います。
歌の盛り上がるサビの部分などで使われることが多く、ロックシンガーの特徴的な歌い方の1つですが、彼女もロックシンガー。
ところが彼女の場合は、サビの部分でもシャウトさせずに、地声、またはミックスボイスのまま、高音部を強く歌いきっています。
これは、歌声をファルセットにせず、声門を閉じたまま大量の息を声帯に吹きかけて歌っているのですが、このように歌うには、元々持って生まれた声帯が強いことが条件です。
そうでなければ、大量の息が吹きかけられた時点で、声門が耐えきれずに開いてしまうので、彼女は、元来、声帯が強い、ということが考えられます。しっかりと閉じた声門が息の勢いに負けない、ということが条件になりますから、これは、彼女が持って生まれた特性と言えるでしょう。
この声帯があることで、彼女の歌声は、どんなに高音でパワフルな歌い方をしても、歌声がびくともせずに伸びやかに歌っていけるのです。女性では、非常に珍しいタイプと言えます。
また、どうしても強い歌声だとハスキーになりがちな響きも、彼女の場合は、そうはならず、さらに高音域まで歌えるのは、彼女が小柄なせいだからかもしれません。
小柄な人は、声帯も短く、それだけ声域も高くなります。さらに小柄なために、下腹部から声帯のある喉までの距離が短くなり、強く吹きかけた息が勢いを緩めずに身体の中を駆け上がれるのです。
息を吐いた瞬間から実際に声帯に当たるまでの距離が短くなるために、その勢いを使って楽に歌声を高く放り上げられます。それによって、弾力のある力強い歌声がキープできる、ということなのです。
これこそが、まさに彼女が天から与えられた“Gifts”であり、Superflyというボーカリストの魅力と言えるでしょう。
似て非なるもの、それが歌詞と文章
続きはこちらからSuperfly『天からGiftsされた歌声で人々を応援し続けるボーカリスト』(後編)人生を変えるJ-POP[第43回]|青春オンライン (note.com)