たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

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連載24回目は、平原綾香さんを扱います。19歳で楽曲『Jupiter』でデビューした彼女は、音楽人、歌姫であることに常にストイックで、進化し続けているアーティストと言えるでしょう。特に近年はミュージカルの分野にも進出し、幅広い活躍を見せている彼女の歌手としての魅力、歌声の魅力などを紐解いていきたいと思います。

『Jupiter』は、平原綾香だから生まれた

平原綾香は、1984年生まれの今年39歳になります。トランペッターの祖父とサックスプレーヤーとして有名な平原まことを父に持つ音楽一家に生まれました。ですが、家族には音楽を強要されなかったとか。

幼少期よりピアノ、水泳、クラシックバレエなどを習い、13歳で自身もアルトサックスを吹くようになります。その後、洗足学園大学附属高等学校の音楽科に進み、そのまま洗足学園音楽大学のジャズコースでサックスを専攻しました。

歌手としてデビューするきっかけは、高校時代の学園祭で音楽科の出し物のミュージカルで彼女が歌ったのを、たまたま父親のプロデューサーが観にきていたことから。

2003年12月、19歳でグスターヴ・ホルストの管弦楽組曲『惑星』の第4楽章「木星」の旋律に吉元由美が歌詞をつけた『Jupiter』でメジャーデビュー。
当時、彼女の歌唱力とクラシック曲のカバーという珍しさがあり、ずいぶん話題になりました。

翌2004年、同曲は大ヒットし、日本有線大賞新人賞や日本レコード大賞新人賞などを受賞。第55回NHK紅白歌合戦に初出場しました。

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その後、彼女は、大学に通いながら演奏活動を続け、NHKのトリノオリンピックの放送テーマソング『誓い』や新潟県中越地震をモチーフにした映画『マリと子犬の物語』テーマソング『今、風の中で』など幅広く活躍。

2008年には、国際宇宙ステーションに滞在する土井隆雄宇宙飛行士の応援歌として『星つむぎの歌』をリリース、また、地球温暖化の影響が深刻なキリバス共和国を取材、島民と演奏するなど、いわゆる新人歌手が歩んでいく道のりとは異なる歩みをしていきます。

さらに2009年には、ドボルザークの『新世界』や、ナポリ民謡『カタリ・カタリ』の旋律を前半に組み込み、後半には、オペラ『トゥーランドット』のアリア『誰も寝てはならぬ』の有名な旋律を組み込んだ『ミオ・アモーレ』を発売。

クラシックの名曲を単にカバーするのではなく、彼女自身の楽曲として歌詞を書き、全くオリジナルな楽曲に作り上げました。

『誰も寝てはならぬ』は本来、男性のテノール歌手の歌なのですが、そういう概念を取り払って、純粋に楽曲の魅力を伝えることに徹した姿と言えるでしょう。

彼女は、これらの楽曲だけでなく、『カンパニュラの恋』や『新世界』『ノクターン』などクラシックの名曲をカバーしたクラシックカバーアルバム『my Classics!』を発売し、同年のレコード大賞優秀アルバム賞を受賞しています。(その後、『my Classics』はシリーズ化)

これは、クラシック音楽の世界で培った彼女独自の感性が、このような誰も今までカバーすることのなかったクラシックの楽曲に歌詞をつけて歌う、というユニークな発想に繋がったのだと思います。

デビュー曲の選曲といい、その後の活動の仕方といい、常に自分の考えや感性を大切にしてきた彼女ならではの活動の仕方のように思えてなりません。また、それが許されるだけの環境に彼女がいた、というのも大きな要因だったかと思います。

音楽の基礎を底力に、活躍の場を広げて

 

続きはこちらから平原綾香『常に進化し続ける歌姫』(前編)人生を変えるJ-POP[第24回]|青春オンライン (note.com)