昨日、急逝した神田沙也加が実はVOCALOID音楽をたくさんカバーしていたというのを知っている人はどれぐらいいるだろう。
『アナと雪の女王』以来の近年、ミュージカル分野への進出が目立っていたが、実は彼女は初音ミクの大ファン。ボカロファンでもある。
その彼女が今年6月に発売したボカロカバーアルバムは、実に3枚目だ。
おそらくずっと活動を続けていたなら、間違いなく、彼女の音楽の分野の重要なポジションの一つにボカロ音楽が入っていただろう。
彼女の歌声の持ち味は、言うまでもなく伸びやかで少し細めの綺麗な響きにある。
地声であるチェストボイスからミックスボイスへの転換やファルセットからのヘッドボイスなど、実に多種多彩な歌声の持ち主であり、ミュージカル出演でしっかりと鍛え上げられた歌声は非常に魅力的だった。
母親の松田聖子と同じ声質を持つのは、2人のデュエットを聞けば一目瞭然である。
ただ彼女の方が、年齢が若い分、伸びやかで透明的な響きを持っている。
この歌声は松田聖子の若い頃の歌声に実によく似ている。若干、松田聖子の声の方が若い頃からハスキー気味であり、その分、幅が少し広いという違いはあっても声質としては全く同じだった。
ボカロ音楽の楽曲をカバーするには、正確な音程と正確な言葉のタンギングが要求される。
これはメロディーラインが細かく刻まれており、音域的に広い部分を展開する曲が多いためだ。さらに高速で展開されるために歌手は、それに影響受けないだけの正確な音取りの技術と、高速に流されないだけの明確な言葉のタンギング技術が要求される。
その為、どちらかといえば、ストレートで細い尖った響きを持った歌声が適していると言える。
これらの点で彼女の歌声は見事にボカロ音楽にハマっている。
彼女の場合、ミュージカルで鍛え上げてきた確かな発声とテクニックによる正統派の歌声を持ちながら、ボカロ音楽も歌えるという幅広い歌手としての可能性を秘めた逸材だった。
35歳は、声帯の成熟期であり、最も充実した歌声が出せる年代である。
あまりに早い逝去に言葉がない。
三浦春馬の時もそうだったが、才能のある人が突然亡くなるのは、本当に悲しみ以外の感情を持てない。
彼女の歌声を聴き続けたかった人は大勢いるだろう。
もっと活躍して欲しかった。