「夢は諦めなければ叶う」ということをこの映画は伝えている。
たった4000ウォンを握りしめて、小さな荷物一つでバスに乗り込んだ日から、彼はどんなに困難な日々でも「歌手になる」ということを諦めなかった。
極貧の一人暮らし。
孤独との戦いの中で、夢の為に家を出たのに、その日を生きていくことに翻弄され続けた。
たった1人で夢だけを心の奥深くに握りしめて、その日を生きていく。
この映画には、彼の孤独と、どんな環境の中でも決して諦めなかった強さが混在している。
その孤独と強さは、スターになった今でも変わらない。
口に出せないような数々の試練を全て自分の心の中に呑み込んで、それでも前を向いて歩いていく。
その孤独感が映画全般に漂っている。
それなのに不思議なぐらい悲壮感はない。
それは、彼が全ての事象を受け入れ消化したからに他ならない。
両親のこと、東方神起のこと、極貧だった生活。
そんな過去を全てありのまま、そのまま受け入れている。
葛藤も抵抗も全て消化したからこそ、言葉を選んでも話せるようになったという事実は、彼がそれらを全て受け入れて前だけを見て歩いているからであり、これからもそのスタンスで彼が人生を歩いていく証でもある。
「いつも誰かに疎まれている」
「嫌われている存在ですよ」
「それでも仕方ない。生き方は変えられないから」
そう言い切る彼の中に芯の強さを見る。
その強さは、どんな環境の中でも決して自分の夢を諦めなかった人間の強さであり、諦めなければ必ず夢は叶う、という彼の信念でもある。
「それでも超えられない壁がある」
「どうしても超えられない壁があります」
そう言いながらも、きっと彼は諦めていない。
11年前に日本活動が打ち切られてからの8年。
その間に彼が死んでしまうのではないかと思うことは正直あった。
生きているだけでいい、と思うことは何度もあった。
それでも、彼の芯の強さをどこかで感じていた。
彼はそんなに弱い人じゃない。
そう思っていた。
その強さをこの映画はまざまざと私達に見せてくれる。
訥々と言葉を慎重に選びながらも、真摯に答えようとする姿は、彼のことを深く知らない人にでも、彼の誠実さが伝わるだろう。
彼が日本活動を再開した時、「諦めないでよかった」と言った言葉は、彼のように強い決意を持ち続けた人でも日本活動を再開することの難しさを伝えている。
日本の普通の歌手のように、当たり前にCDを出し、音楽番組に出て、ライブ活動をする。
歌手として当たり前の活動を取り戻すことが如何に難しかったかを現している。
彼だから取り戻せた日本活動であり、歌手活動である。
コロナ禍の中でも決して諦めずに日本活動を継続しようとする。
この映画の制作者を見た時、ハッキリ誰を対象に作られた映画なのかがわかった。
彼の日本への強烈なメッセージがここにある。