山口百恵が芸能界を引退して40年。

ちょうど秋の深まる時期の引退だった。

それを記念してなのか、歌番組や過去の作品のオンエアーが目白押しである。

昨夜の「うたコン」でも山口百恵の歌を氷川きよしが歌った。

 

久しぶりに彼の歌を聴いた。

演歌と山口百恵の楽曲には大きな距離感がある。

楽曲の種類はもちろんだが、1番の違いは「言葉の処理」だろう。

山口百恵の言葉の処理能力はズバ抜けていた。

彼女のタンギングは、未だに誰も追随出来るものがいない。

抑揚のない日本語に見事にリズム感を与えて処理して行ったのが彼女だ。

かたや、演歌は、平坦な日本語のリズムをそのまま踏襲する形でメロディーが作られる。

そのため、どの歌手もフレーズの最後の一文字まで綺麗に発音して響かせて歌う。

これがいわゆる山口百恵の楽曲と演歌との大きな違いになる。

その距離感を氷川きよしがどのように埋めるのか非常に興味深かった。

 

 

彼が使った歌声は全体にウィスパーボイス。

力を抜いて細い響きで歌う。

そうやって重くなりがちな言葉の処理をしていた。

 

山口百恵の歌の特徴に、非常に言葉数が多い、というものがある。

これは彼女の言葉の処理能力が優れていたからこそ出来る事で、有名な「プレイバックPart2」などはその代表格とも言える。フレーズの音数に対して字余り的に歌詞の言葉が並ぶからだ。

それほどに言葉数が多くても彼女が歌えば決してそれは重いものにならず、綺麗に音の上を並んでいくのである。

 

「さよならの向こう側」は引退を迎えた彼女の最後の楽曲で、冒頭部分に彼女特有の言葉数が多い歌詞が並び、後半のサビはエネルギッシュに歌い上げていく構成になっている。

 

 

氷川きよしは、この楽曲を前半はウィスパーボイスを多用することで、言葉数の多さから来る重量感を軽減し、後半のサビに向かっては、ミックスボイスへと変換して歌い上げていくことで、エネルギッシュな楽曲へと転換させる手法を取った。

 

演歌とポップスの歌い分け、を主流に置いている彼にとっても、さすがにこの曲の前半部分は、山口百恵のタンギングには及ばない。ウィスパーボイスで極力、言葉の重量感を抜いているが、所々に重さが現れる。それほどに彼女の楽曲の言葉の処理というものが難しいという事を現している。

しかし、後半にかけてのミックスボイスへの変換は見事だった。

そこからは十分に氷川きよしの持ち味が発揮されている。

彼がもっと多くのポップス曲に触れていく事で、長年の演歌のタンギングの癖から開放されるといい。

そうなれば彼の歌はもっと飛躍的に表現力が深まるだろう。

 

そんな事を思った。