NHKのラジオ番組で先行配信されたのを聴いた。(音声データを送って下さった方、ありがとうございます)

高橋真梨子の代表曲である。

非常にロマンティックなメロディーとセンチメンタルな歌詞の組み合わせによって大ヒットした曲だ。

 

この楽曲のレビューをどの方面から書くのがいいのか、ちょっと考えた。なぜなら、ジェジュンのカバー曲の評価は既に高く、今回のアルバムのラインナップだけでなく、おそらくどんな曲を持ってきても一定の評価のラインを超えてくるのはわかっているからだ。

確かに女心を歌うカバー曲は非常に上手い。それは切々とした言葉を丁寧に紡いでいくセンスと主人公の心情を自分の中に引き寄せ、完全に同化する音楽性を持つからに他ならない。

この曲に於いても彼のその音楽性は遺憾無く発揮されてる。だから「聴いただけで涙が出た」「泣ける」という評価に繋がっていくだろう。

その面から分析するなら、評価は今までと何ら変わらない。

女心の心情を切々と歌い紡いでいく。オリジナルの持つ雰囲気を壊すことなく、自分の歌声で踏襲していく。

これが彼のカバー曲の歌い方であって、おそらく他の曲もその部分に於いては、同じであろうと感じる。

では、どこがオリジナルと違うのか。

その部分に於いても、尾崎豊の「Forget-me-not」の高い評価にあるように魂を込めて歌う音楽スタイルは、時にオリジナルを超えてくるほどの感動を聴衆に与える。

これがジェジュンがカバー曲を歌い高い評価を獲得する大きな理由だろう。

 

しかし私はもっと違う面が見たかった、というのがこの曲を聴いての率直な感想だ。

オリジナルの高橋真梨子の歌声は非常に透明的で細い。

彼女の場合、エネルギッシュに歌い上げても細い声の響きの中で感情を押しつけてこないという特性を持つ。

彼女の歌の場合、この曲を一定の距離感を持って歌っているのが特徴である。

距離感を持ち、淡々と歌う。彼女は決して激情的に歌わない。それなのになぜか涙が出るのである。

淡々と過ぎ去った過去の愛を思い出している。そういう主人公の客観性の視点の中で歌われていく。

だから悲しい。

だから余りにも切ないのだ。

彼女は表情一つ変えずにこの曲を淡々と歌う。後半のクライマックスのサビの最も感情が昂っていくフレーズにあっても彼女は微動だにしない。淡々と歌い続けるだけだ。

 

ジェジュンの歌は過ぎ去った遠い記憶の歌ではない。

今、現実に「あなたが欲しい」のである。

この時間的な違いがオリジナルとの決定的な違いだと感じる。

 

どちらがいいとか悪いとかは関係がない。ただ彼はこの歌を自分の側に引き寄せ、主人公の心情に同化した。

彼にとっての「あなたが欲しい」は現在なのだ。だからこそ、サビの後半部分もシャウトするように歌い上げていく。そこに淡々と過去を振り返る現実はない。

これがジェジュンという歌手の歌い方であり、だからこそ高い評価を受ける所以だと言える。

しかし私はもう少し違う歌が聴きたかった。

主観的でなく客観的で距離感のある歌を聴いてみたかった。

彼がカバー曲を歌うのなら、次のステージへ行くのを見たい。今までのように主人公に同化して歌い上げていくカバーではない、もっと別の歌が聴いてみたい。

 

彼が楽曲と距離感を持てば、どんな歌になるのだろうかと思う。

そこにジェジュンという歌手の成長を見てみたいと思うのだ。

 

「慟哭の歌手」「魂を歌いあげる歌手」

韓国人でありながら、深い日本語の理解力を持ち、それで十分ではないかと多くの人は思うだろう。

こんなに日本人の心の琴線に触れる歌を歌える韓国人など今まで存在しなかった。これで十分ではないか、と思うかもしれない。

でも私は、そんな評価から離れて新しい彼の音楽性を見てみたいと思う。

彼の中では韓国語も日本語もない。

一つの音楽をどう表現するのか、どう歌い上げていくのか。

それだけの感覚のはずである。

 

だったら私は彼の歌手として別の姿を見てみたい。

この数ヶ月で彼が歌手としてどのように成長したのか、それが知りたい。

「Love CoversⅡ」は、そういう一枚であって欲しいと願っている。

ジェジュンなら、こう歌うだろうという期待をいい意味で裏切っていく。

そういう歌手としての新しい試みを見てみたい。

 

※歌声や歌い方の分析は、正式に配信か発売された折に、あらためて書きます。