最初、この曲の出だしのピアノの音を聴いた時、違和感を覚えた。
その違和感の正体はアルバムより音を下げて演奏しているということ。
その違和感だった。
別にキーを下げて歌うことは悪いことじゃない。
調子が悪い時、無理をせずにキーを下げて歌うことは歌手にはありがちなことだ。特に彼の場合、キーポジションが高い歌を歌うことが多い。それゆえ声帯への負担も大きい。だからキーを下げて歌う事になんの批判もない。
ただ私が気になったのは、音を下げた事による音楽の回転の悪さだった。
キーポジションを下げた為に彼の歌声はちょうどボイスチェンジの部分が多用される音域にメロディーラインが被さってくる事になった。その為、コントロールが難しい。慎重にボイスチェンジを行うからなのか、それとも楽曲が持つリズム感がコードが変わった事で楽曲の特質そのものが変わったのか、音楽が前に進まない。進まないというよりは、進みが重い。そういう印象を持った。
ここに彼自身も女性歌手のカバー曲を歌う時によく話す「キーを下げる事で楽曲のイメージそのものが変わるのではないかと思う」という懸念がまさに生じていると感じる。
「奏」は本来、ジェジュンがアルバムで歌っているよりも5度ほど低いキーがオリジナルだ。その曲を彼は自分用にキーを上げて歌っている。だからこの日、ほんの2度ほど下げて歌ったとしても、それでもオリジナルよりは十分高いキーで歌っていることになる。
だが彼のキーポジションで聴き慣れた耳には、その僅かのコードの違いも違和感を覚えるほどだった。
その違和感がこの曲の進行を後ろに引っ張るような重い動きにしているように感じたのは確かだ。
ジェジュンの「奏」には、音色の持つ本来の明るさと軽快さがある。しかし、この日のコードではもっと暗い音色になっていた。それが違和感を覚える一番の原因だったように思う。
その違和感は彼自身も感じていたのではないだろうか。
非常に歌いにくそうにしているのが見て取れた。
本来の彼のコードの高さにしなかった理由が何かはわからないが、この曲に関して言えば、それを感じる。
ただ、そういう状況下でも彼の表現力は十分発揮されている。また低音域ならではの甘い濃厚な響きの歌声の世界を十分表現しきっている。
このような発見もライブ音源ならではのことであり、ライブ音源のレビューの楽しみの一つだろう。
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