宇多田ヒカルのカバー曲だ。

この曲を彼が歌うと曲そのもののイメージが大きく変わる。

宇多田ヒカルが歌った「First Love」には10代の透き通ったような純粋さと初々しさの色合いが歌声にあふれている。しかし、ジェジュンがこの曲を歌うとそれは何とも物悲しい甘い感情をそそる曲になる。

「未来予想図II」でもそうだったが、オリジナルの歌手達の歌には現在進行形の力強さがある。

それは現実感を伴った強さだ。

それに比べて、ジェジュンが歌うと「未来予想図II」も「First Love」もノスタルジーに包まれた過去の幻影になる。これが男性が女性曲を歌うことによる非現実感なのかもしれない。

どこか存在しているようで存在していない世界。

女性の感情の世界を歌うとき、彼の歌は甘い歌声と共にノスタルジックになる。

それがこの人のカバー曲の魅力であり、彼が性別に拘る事なく歌える強みなのだろう。

 

彼の強みはその歌声の色彩感にある。

こうやってあらためてライブ音源を聴き直すと、彼の歌声は以前の透明的な歌声から色彩の強い歌声に変化している。この色彩は女声のアルトが持つ特性に非常に近い。

特に彼は高音域を意識して多用するため、特にその響きが女声の声質に似通うという特性が顕著になる。また彼の中・低音域の混濁した甘い歌声がさらにその特性を助長している。

透明性の高かった頃の以前の歌声では、この音域はもっとハスキーになっていた。高音域はハスキー気味だったが最近の歌声にはハスキーさがない。その代わりに丸く角の取れたソフトな響きがある。

これがかつての歌声と今の歌声の一番の違いかもしれない。

 

2日間行われたカバーアルバムのライブでは彼は非常に集中したいい歌を歌っていたのが記憶に残る。

カバー曲のそれぞれの色合いを損ねる事なく自分のオリジナル性のある歌を披露するには、彼にとっては歌声の状態は非常に重要だ。

そういう点で、このライブは、集中したパフォーマンスを感じさせるものとなっている。