ジェジュンの投稿騒動から一週間が過ぎた。

あれだけ新曲のプロモーションであちこちのメディアに出演していた彼の姿も歌声もプッツリと消えた。

まるで2年以上前の日々に記憶が戻ったかのようだった。

 

私はちょうど10年前の1月、彼のファンになった。

ブログを読むこともない、それほど積極的で熱心なファンでもなかった。どちらかと言えば、娘や娘の友人が東方神起のファンになったのに引っ張られるようにファンになったようなものだった。

それまでも何度か彼らの歌を聴かされ、評価を求められたが、私の耳には彼らの歌が入ってこなかった。

なぜなら、その頃は音楽の仕事がかなり忙しく、仕事以外で歌を聴きたいと思えなかったからだ。

 

年が明けたある日、娘が車のオーディオに入れっぱなしにしていたアルバムの歌声がふと私の耳に届いた。5人の歌声の中に一人だけ、発声法が完璧な歌声があったからだ。

それまでJPOPの歌手は地声で歌っていて、私達の発声法とは全く異質の発声法だとばかり思っていた私の先入観をその歌声は見事に覆した。

それが彼の歌声だった。

 

彼の歌声はどの音域を取っても伸びといい、響きといい、完璧だった。

文句の付けようがなかった。

そんな発声をしている歌手が芸能界にいるということが私には驚きだったし、新鮮だった。

そうやって私は彼のファンになった。

 

それからの8年間の私の気持ちは、過去ブログに書いている。

私のファンとしてのブログは、彼が日本活動を打ち切られた時から始まり、8年後、日本の活動を正式に再開した時に終えた。

8年間、書き綴ってきたのは、彼の歌の良さを多くの人に知って欲しかったからだ。

 

彼は東方神起時代にリードボーカルのメインボーカルを担当しながら、歌手としての評価が低かった。彼の歌を正当に評価してくれる記事はどんなに探しても見当たらなかった。

それは日本では東方神起というボーカルグループとしての評価であり、韓国では別のメンバーの評価記事ばかり目にしたからだ。

 

私は不思議だった。

誰が聴いても彼の歌は上手いと言う。

現に私の音楽仲間たちは彼の歌声だけが別物だと言った。

「一人だけ、正当な発声法をしてる人がいるね」「彼は上手いね」

そういう評価の声を何人もから聴いた。

それなのに、彼の歌についての評価がどこにも見当たらなかった。

 

その頃、私はある韓国のファンサイトが日本ファン向けに書いているブログに出会った。

そこには私の知らない彼の歌の評価が次から次へと書かれているのだった。

私は時間を忘れて読み耽った。

 

それが彼の歌を評価した唯一の記事だった。

そのサイトでは、彼の歌についてのレビューコンテストを行なっていた。

私が歌の専門家だと知ると、そのサイトのマスターはぜひ、彼の歌のレビューを書いて応募して欲しいと言った。

そうやって私は彼の歌のレビューを初めて書いた。

それがボーカルレビューの始まりだ。

だから今、私が多くの歌手の歌のレビューを書けるのは、彼の歌との出会いがあったからに他ならない。

彼が日本の音楽市場から去らなければ、私は決してブログを書くことも、歌手の歌のレビューを書くこともなかったのだ。

 

 

8年の間には実に様々なことがあった。

私はファン社会の中で孤立した存在だったから、ネット社会のありとあらゆることを経験した。

あまりに多くの経験に弁護士から「まるでネット社会の百貨店ですね」と笑われるほど批判が酷かった。

 

 

一人の音楽ライターとして今のポジションにいるのは、彼の歌声との出会いがあったからだ。

彼が8年前、日本を去らなければ、私はブログを書くことは決してなかった。

「歌」だけをリアルに教えているボイストレーナーとボーカルアドバイザーの仕事だけをして、相変わらず、音楽の仕事に疲れている毎日だったかもしれない。

 

彼が日本を去らなければ、私は決して「書く」という世界に入ることはなかったのだ。

今の私は存在していない。

 

 

ファン社会を離れて、この2年、歌手の歌をたくさん聴いてきた。

音楽ライターとして多くの歌手の歌を聴く中で、ファンになった歌手も何人かいる。

歌を分析していると、自ずとその歌手の性格がわかる。

その人がどんなスタンスで物事に取り組むのか。それは音楽を通して必ずわかるものだ。

真面目な人、謙虚な人、コツコツ物事に取り組む努力家、誠実な人、etc. etc.

彼らの歌には、その人となりが刻み込まれている。

その一つ一つを紐解いていく作業は非常に楽しい。そして面白い。

自分の音楽や歌の知識を文章にすることで、少しでも歌手の良さを多くの人に伝えることが出来たら、と思ってレビューを書いてきた。

なぜなら、日本の歌手は楽曲の評価はされても、歌手としての歌の評価をされることは少ないからである。

 

これは楽曲を「歌」というものも含めたトータルな形で評価することが多く、歌手の歌唱力、表現力という力量に関しての評価が本当に少ないことに起因する。

私は歌の世界に生きて来た人間として、歌手の歌をきちんと評価して欲しいと思う。

なぜなら、どんなに優れた楽曲であっても、それを表現する人、即ち歌手が「歌」として息を吹き込まない限り、それは机上の空論でしかないからだ。

楽曲は歌手の力量によって決まる。

だから、カバー曲は、それぞれの歌手の特徴によって様々な顔を見せるのだ。

 

 

私がジェジュンの歌をレビューとして8年間書き続けて来たのは、少しでも彼の歌の良さを多くの人に知って欲しかったからだ。

日本を離れてしまった彼の歌を耳にすることはほとんどなかった。

彼の東方神起のボーカルとして残した歌声は、多くの日本人の耳の中に彼が去った後も残り続けていた。

それは曲の記憶と共に蘇ってくるものだった。

だから多くの日本人に彼の歌声を忘れて欲しくなかった。

彼が日本で歌手として完成させた功績を消し去りたくなかったのだ。

そして、彼がいかにソロ歌手として優れた才能の持ち主であるか、韓国人でありながら、日本活動の経験が彼を歌手として大きく成長させ、それゆえに彼の日本語曲の歌唱力が抜きんでいることを多くの日本人に知って欲しかったからだった。

 

そうやって書き続けた彼の歌は、彼が2年前に日本に戻り、歌手活動を再開させると多くの人が評価するようになった。

誰が聴いても彼の日本語の表現力、歌手としての歌唱力が抜きんでいていることは明らかだった。

8年、韓国でどれだけ頑張っても得られなかった歌手活動と正当な評価を彼はたった2年の日本活動で得ることが出来たのだ。

歌手としての当たり前の活動と正当な評価。

それだけを渇望し続けた8年間だった。

 

 

今、彼の歌声も姿もメディアから消えてしまった。

当然のことであり、どんなに彼が優れた歌手であったとしても、彼が取った行動を擁護することは出来ない。

心情は理解できても、行動は別の方法があった。

出演が見合わされるのは当然の結果であり、彼の歌声がいつメディアに復帰できるのか、それすら私には一切わからない。

 

3月に発売された3枚目のシングルは、両A面だった。

今まで2枚発売されたものとは明らかに違う曲調だった。

一曲は彼がグループ時代に培ったR&Bの実力を余すことなく発揮しているものであり、もう一曲は、彼が最も得意とするバラード曲だった。

 

彼のR&Bの世界は、彼にしか表せないリズム感のある世界だ。

これは東方神起時代に彼がリズムの中で日本語を処理する能力を身につけたもので、アップテンポの曲であればあるほど、その実力が発揮される。

今、多くの歌手がR&Bを歌うが、日本でR&Bの音楽が広まったのは、東方神起の功績が大きいと私は思っている。

その時に培ったものは確実に彼の音楽性の中に刷り込まれており、彼は今回、その引き出しを開けたのだ。

「BRVA!!BRAVA!!BRAVA!!」は、彼の新しい魅力を広める曲になったはずだった。

 

私は今回の彼の発言を音楽ライターとして痛烈に批判した。

それは彼の言動が、歌手としての彼の評価を脅かすものだったからだ。

 

「歌に人間性が現れる」と私は書いたが、彼の歌には、彼の人間としての感情の豊かさや、暖かさ、寛大さ、優しさ、包容力、そして切なさや悲しみ。それらのものが色彩となって言葉を彩っていく唯一の歌手であり、そこには彼の魂が込められている。

最も歌を自分の側に引き寄せ、時には同化し、溶け込み、歌と距離のない世界を表現する歌手。

それがジェジュンという歌手であり、そこに彼にしかない唯一の世界観が拡がっているのである。

 

その良さを伝えきらないうちに、彼の評価が音楽とは別の部分で固定化されることの原因を彼自身が作ったことに憤りを覚えたのだ。

彼の取った行動は、どんな事情があったにしても、決して許されるものではないのはわかっている。

それでも一人のファンとして、今回のことで彼の全てが評価されてしまうことが残念という言葉で言い表せないほど、悔しい。

彼がこの10年、決して歌を諦めず、血を吐くような思いで歌い続けて来た全てのことが、今回のことで正当に評価されないのが悲しくて堪らない。

 

 

あの日、私は、彼の「うたコン」での「BRAVA !!BRAVA!!BRAVA!!」の記事を書く準備をしていた。

その記事は、途絶えたままだ。

 

 

あれほどのことをして、彼の歌も歌の評価も他の歌手のファンからすれば、不愉快なもの以外にないのかもしれない。

それでも私は近々、その記事を完成させ、彼の歌についてのレビューを再び書き始めようと思っている。

 

 

これは私のワガママだ。

音楽ライターとしては失格なんだろう。

でも私は書きたい。

私も彼のファンの一人だから。

 

 

私が初めて書き、コンテストで1位を取ったレビューは下記にあります。

一人のファンとしての気持ちを綴ったものです。

 

ジェジュンへの手紙